こんにちは埼玉県所沢市の石州石工興業です
旅行に行った際、いろいろな場所を巡る楽しみがあると思います。
私自身、寺社仏閣を巡って御朱印を集めることもありますし、私の地元である川越の「蔵の街並み」を見に来てくださる方も多いのではないでしょうか。
最近ではダムや橋、首都圏外郭放水路などの「インフラ観光」も人気ですが、一般的な建築物と比べると、まだ注目度は高くないかもしれません。
そこで、お出かけの際にぜひ注目していただきたい「土木構造物」を紹介していくシリーズを始めていこうと思います。
題して、「土木を巡る旅(仮)」
(※もっと良いタイトルがあれば、ぜひアイデアをお願いします!)
今回は、富山県魚津市にある土木遺産「東山円筒分水槽」をご紹介します。
1955年(昭和30年)に完成したこの施設は、2020年(令和2年)に国の登録有形文化財に登録され、2021年(令和3年)度には土木学会選奨土木遺産に認定されました。
円筒分水槽とは?
まずは「円筒分水槽とは何か」を説明していきます。
これは、農業用水などを一定の割合で正確に複数箇所へ分配するための利水設備です。
円筒状の中心部から水を湧き出させ、円筒外周部から越流(えつりゅう)・落下する際に一定の割合に分割される仕組みになっています。地域によって呼び方はさまざまですが、土木工事の分野では一般的に「円筒分水工」と呼ばれます。
昔は高低差を利用して水桶に水を入れていたものもありましたが、分配にムラが生じるため、現在は「サイフォン方式(逆サイフォン)」が主に使われています。
簡単な図を使って説明します

1湧き上げ: 下から湧き上げた水を分水槽に溜めます。。

2・越流: 分水槽に溜まった水は溢れ出し、外側の分水路に入ります(施設によっては溢れさせず、側壁の穴から均等に出すタイプもあります)。
3・分配: 分水路から各水路へ流れますが、地域によって必要な水の量は異なります。

4・仕切り: そこで外周に「仕切り」を入れます。均等に入れれば等分され、仕切りの間隔を広くすれば他の地域より多く供給されるという、物理的に極めて正確な構造です。
歴史的背景
水田耕作が主体だった日本において、農業用水の確保は死活問題であり、各地で激しい「水争い」が起きていました。これを解消するために考案されたのが、大正年間に普及し始めた「分水桶」です。
円筒分水工の第1号は1914年(大正3年)と言われています。当初は高低差を利用した導水方式でしたが、昭和に入ると地下から水を吹き上げる方式が登場しました。
しかし、初期のものは流水量に偏りが出るという課題がありました。そこで、円筒状に組んだコンクリート設備の中央に「逆サイフォンの原理」で導水し、円筒を均一に越流させる方式が考案されます。1941年(昭和16年)、神奈川県川崎市に「久地(くじ)円筒分水」(国の登録有形文化財)が造られ、正確な分水が実現されたことで、この方式が全国へ普及していきました。
現在でも、全国に100基以上の円筒分水が残っています。
東山円筒分水槽を紹介する前に、他の円筒分水工も紹介します。
全国にある注目の円筒分水工
東山円筒分水槽の前に、特徴的な他の施設もいくつか紹介します。
日本最大:防府(ほうふ)総合用水(山口県防府市)
直径34mという日本一の大きさを誇ります。
日本一の流水量・受益面積:徳水園(岩手県奥州市)
名称は「寿安堰(じゅあんぜき)・茂井羅堰(もいらせき)用水」。直径31m、流水量16.0㎥/s、受益面積(※)は7,400haという圧倒的な規模です。
※受益面積とは: その円筒分水施設が、どれくらいの広さの田んぼを養っているかを示す指標です。

現存最古級:久地(くじ)円筒分水(神奈川県川崎市)
先述した通り、1941年(昭和16年)に完成。直径16mで、今もその姿を残しています。

最大規模の群:西天竜幹線水路円筒分水工群(長野県)
全長26kmの幹線水路沿いに、大小合わせて83基(現在活用されているのは35基)が点在する珍しいエリアです。
東山円筒分水槽を詳しく解説
ここからは本題の「東山円筒分水槽」について深掘りします。
「日本一美しい分水槽」と称されるこの場所は、建築好きやダムマニア、そして写真好きにはたまらないスポットです。


1. 建設の背景
この地域を流れる片貝川は、急勾配で流れが速い「暴れ川」として知られていました。古くから貴重な水源でしたが、干ばつのたびに下流の村々で激しい水争い(水騒動)が絶えませんでした。
戦後、食糧増産のた公平な配水が急務となり、1950年代に「県営片貝川沿岸土地改良事業」の一環として建設が決定しました。総事業費は約7億円、現在の価値に換算すると200億〜300億円規模という国家級の大プロジェクトでした。
2. 驚きの精度
1954年(昭和29年)に当時の最先端技術を用いて建設されました。中央から湧き上がった水が、波を立てず静かに溢れ出す構造になっています。外周の仕切りの長さを、各地域の灌漑面積に応じた比率で分割することで、誰の目にも明らかな「公平な配分」を実現しました。
分水槽からは、3つの用水路に以下の割合で分配されています。
天神野(てんじんの)用水: 59.7%
東山(ひがしやま)用水: 13.9%
下条(げじょう)用水: 26.4%
この「1パーセント単位」の緻密な分配を、電気も機械も使わず、ただ「円周の長さ」だけで実現している事実に、先人の知恵と執念を感じずにはいられません。水量が変動しても、比率は常に一定に保たれるのがこの仕組みの素晴らしい点です。
観光スポットとしての魅力
近年、マスコミやSNSで取り上げられる機会が増え、訪れる人が多くなっています。2020年には周辺がポケットパークとして整備され、ベンチ、駐車場、そして分水槽を上から見渡せる高台も作られました。
風景の魅力: 晴天の日は水面がキラキラと反射し、背景には北アルプスの山々が。雨の日や田植えの時期は水量が増え、ダイナミックな「水の壁」が現れます。
癒やしの音: ぜひ耳を澄ませてみてください。激しい音ではなく、さらさらと絶え間なく流れ落ちる音。のどかな田園風景の中に響くその音は、最高のヒーリングスポットです。
周辺のおすすめ
片貝川の対岸には、車で5分ほどの場所に「貝田新円環分水槽」は
片貝川の急流を利用した非常に珍しい運用形態を持つ土木施設です。
すぐ近くにある「東山円筒分水槽」と対になって機能しており、この2つを合わせて理解することで、その技術の高さがより鮮明に浮かび上がります。
役割と仕組み:川を越える「親」の分水槽
貝田新円筒分水槽は、片貝川の左岸に位置しています。最大の特徴は、ここで分けられた水の一部が「川の底をくぐって対岸へ送られる」という点です。
分配の仕組み: 上流から導かれた水を、ここでまず「左岸側の用水」と「右岸側へ送る水」に振り分けます。
伏せ越し(サイフォン): 右岸側へ分配された水は、直径約1mの管2本を通り、片貝川の河床下約5.5mを潜り抜けて対岸へと流れていきます。
東山への供給: 川をくぐった水は、対岸にある有名な「東山円筒分水槽」から再び湧き出し、さらに3つの用水へと細かく分けられます。つまり、貝田新は東山分水槽にとっての「水の供給源」といえる存在なのです。
この貝田新から東山へと続く一連の分水システムが完成したことで、川の両岸で公平かつ効率的な水利用が可能になり、地域の農業発展に大きく貢献しました。
また、車で30分ほどの上市町には「釈泉寺(しゃくせんじ)円筒分水槽」があります。興味があれば、ぜひ見比べてみてください。

そして旅の楽しみといえば、やはり「海の幸」です。
春: ホタルイカ。魚津には「目取り」という、目・くちばし・軟骨を丁寧に取り除く文化があり、一手間で口当たりが劇的に変わります。また、波打ち際が青く光る「ホタルイカの身投げ」や、春の風物詩「蜃気楼」に出会えるかもしれません。

夏: ウマヅラハギ。
冬: 寒ブリ、ベニズワイガニ。
土木遺産の美しさと、富山の絶品グルメ。次のお出かけに、こんな「土木を巡る旅」はいかがでしょうか。
今回は先日、社長が訪れた場所を紹介させていただきました。
次回も、どこか素敵な場所を紹介できたら思っています。
write by N・D

