こんにちは。埼玉県所沢市の石州石工興業です。
ブログの前に、先日起きた「令和8年熊本地震」で被災された皆様へ
このたびの地震により被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
不安な日々を過ごされていることと存じますが皆様の安全と健康を心よりお祈り申し上げます。
一日も早く平穏な生活を取り戻されますよう、そして被災地の復旧・復興が進みますよう願っております。
令和8年7月30日
有限会社石州石工興業 代表取締役 大畑信明
今回も「土木を巡る旅(仮)」第二弾をお送りしていきます。
場所は、富山県富山市。富山駅北側から河口の富山湾まで南北に続く富岩(ふがん)運河の中流域にある、「中島閘門(なかじまこうもん)」を紹介していきます。
1934年(昭和9年)に竣工。1998年(平成10年)に、昭和初期に造られた土木建造物として全国で初めて国の重要文化財に指定されました。
「中島閘門」、字だけ見ても何なのか想像がつきませんよね。
こう言えば、なんとなく想像がつくでしょうか。
「パナマ運河の水のエレベーター」
ただ、パナマ運河ほどの大きさを想像してはいけません。あんなに巨大なものではありませんが、日本国内にも多く存在し、今も現役で稼働しています。
閘門(こうもん)について
閘門とは
水面の高低差がある場所にそのまま船を通そうとすると、急流に巻き込まれたり、段差に阻まれたりして座礁・転覆してしまいます。そのような水位の異なる2つの水面の間で、船を安全に航行させるために造られた特殊な水門です。
では、水門と閘門の違いとは何でしょうか。
水門: 水量の調整・水害の防御を目的としており、船は原則通れません。
閘門: 船の航行を目的としたもので、水門の一種です。

閘門の歴史
車も列車もない古代、輸送の主役は水上でした。
段差や大きな高低差がなければ問題はないのですが、そういうわけにもいかず、昔は船を人工的に起こした鉄砲水で移動させたり、人力で引き揚げたり、リフトを作ったりしていました。
そんな中、考え出された仕組みが閘門です。
984年に中国で世界初の閘門が作られたと言われています。その技術は14世紀頃に中国からヨーロッパへ渡り、世界へと広がっていきました。
15世紀に、現在世界中の閘門で使われている「マイターゲート(合掌扉)」を発明したのは、あのレオナルド・ダ・ヴィンチです。
日本では江戸時代の1731年、現在の埼玉県さいたま市緑区に完成した「見沼通船堀(みぬまつうせんぼり)」が、最初に作られた本格的な閘室式(こうしつしき)閘門です。
明治時代に入ると、「殖産興業」の政策のもと、オランダから招かれた土木技師によって西洋の最新技術(レンガ造り・石造り、鉄製の観音開き扉)が次々と導入され、西洋式の閘門へと変わっていきます。
戦後、トラックや鉄道などの陸上輸送が主役になると、多くの運河が役割を終えて埋め立てられ、閘門も減っていきました。しかし、東京や大阪など海抜の低い地帯にある閘門は、船の通り道から「水害から街を守る防災拠点」へと劇的な役割転換を遂げます。
東京都東部の江東デルタ地帯(地盤沈下により海面より地面が低い「ゼロメートル地帯」)では、高潮や大地震による水害を防ぐために閘門が極めて重要な任務を担っています。また、災害時に陸上交通が麻痺した際、「川を使って救助艇や支援物資を運ぶための緊急舟運ルート」として機能するよう設計されている閘門もあります。
閘門の種類
閘門は、主に水門の扉の配置や形状によっていくつかの種類に分類されます。
1. 扉の配置による分類
水路上の構造(ゲート)の数や配置によって、主に以下のタイプに分かれます。
単段式閘門(Single-stage lock)
最も一般的な閘門です。2つの閘門扉(ゲート)で挟まれた1つの部屋(閘室:こうしつ)だけで水位を調節します。
特徴: 構造がシンプルですが、対応できる水位差が比較的小さい場所に制限されます。
尖連式(せんれんしき)閘門(Flight locks / Staircase locks)
複数の閘室を階段状に連続して配置した構造です。
特徴: 前の閘室の「前扉」が次の閘室の「後扉」を兼ねるような形で、一気に大きな水位差(山や丘など)を越える際に向いています。イギリスの運河などに多く見られます。
並列式閘門(Double lock / Twin lock)
同じ構造の閘門を横に2つ並べたものです。
特徴: 交通量が多い場所で上下線を分けたり、片方がメンテナンス中でも通航を止めないために配置されます。また、片方の水の一部をもう片方に移動させることで、節水に利用されることもあります。
2. 閘門扉(ゲート)の開閉方式による分類
水位を制御するために最も重要な「門扉」の動き方による分類です。現場の規模や水圧、敷地の広さに応じて選定されます。

3. 特殊な閘門(水面の高さを変える別のメカニズム)
一般的な「水を出し入れして水位を変える」閘門とは異なり、水ごと船を機械で移動させる豪快なシステムもあります。
インクライン(傾斜鉄道方式)
水槽(船の入った箱)を台車に乗せ、線路の斜面をケーブルで巻き上げて上下させる方式です(例:京都の蹴上インクラインなど。現在は遺構となっているものもあります)。

船舶昇降機(シップリフト)
エレベーターのように、水槽ごと垂直に船を上下させる施設です。非常に大きな水位差(数十メートル以上)を短時間で移動する際に用いられます(例:中国の三峡ダムのシップリフトなど)。
日本の河川や運河(富山県の岩瀬運河にある中島閘門や、東京の小名木川にある荒川ロックゲートなど)では、主に合掌扉(マイターゲート)や起伏扉(セクターゲート)、ローラーゲートが現地の条件に合わせて採用されています。
世界の有名な閘門
世界の有名な閘門は、その歴史の長さ、規模の巨大さ、あるいは連続する美しい構造など、それぞれに土木技術の粋を集めた特徴を持っています。世界的に特に有名で、土木史や近代インフラを語る上で外せない名所をいくつかご紹介します。
① パナマ運河の閘門(パナマ共和国)〜世界で最も有名な大動脈〜
特徴・見どころ: 太平洋と大西洋を結ぶ、世界で最も有名な「閘門式運河」です。中央にある巨大な人工湖「ガトゥン湖(海抜約26m)」に合わせて、船を水の力だけで3段階に昇降させます。
「ミラフローレス閘門」や「ガトゥン閘門」が有名で、幅ギリギリの巨大なコンテナ船が左右の電気機関車(通称:ミュール)に牽引されながら壁際を通航する姿は圧巻です。門扉には堅牢な「合掌扉(マイターゲート)」や「引込扉(スライディングゲート)」が使われています。


画像出典:Wikipedia
② キールドレヒト閘門(ベルギー・アントワープ港)〜世界最大級の規模を誇る近代閘門〜
特徴・見どころ: 現時点で「世界最大の容積(サイズ)を持つ閘門」です。全長500メートル、幅68メートル、深さは約18メートルあり、22,000トン以上の構造用鋼材を使って作られました。巨大なコンテナ船が港の内外を安全に行き来できるよう、極めて高い土木技術で建設されました。隣にある「ベレンドレヒト閘門」と並び、ヨーロッパの物流を支える超巨大インフラです。

画像出典:Wikipedia
③ 三峡ダムの閘門(中国・長江)
特徴・見どころ: 世界最大級の水力発電ダム「三峡ダム」に設置された、世界最大規模の「階段形(尖連式)閘門」です。ダムによる水位差(約113メートル)を、5つの閘室を階段状に乗り継いで(5段式)約4時間かけて超えていきます。また、大型船用の閘門だけでなく、中小型船を水槽ごと垂直に上下させる「船舶昇降機(シップリフト)」も併設されており、近代土木技術のショールームのようになっています。

④ ケン&エイボン運河「ケーンヒルの連続閘門」(イギリス・ウィルトシャー)〜歴史的・景観の美しい連続閘門〜
特徴・見どころ: イギリスの歴史的な運河にある、29の閘門が連続する世界屈指の階段形閘門群です。特に中央の16連続の閘門は、坂道に沿って水門がずらりと美しく並び、絵画のようなイギリスの運河風景を作り出しています。これだけ連続すると1回通航するたびに大量の水が失われるため、各閘門の横に「サイドパウンド(副池)」と呼ばれる貯水池が配置されているのが技術的な特徴です。

⑤ ミディ運河「フォンセランヌの階段形閘門」(フランス)
特徴・見どころ: 世界文化遺産にも登録されている、17世紀(ルイ14世の時代)に建設された歴史的なミディ運河の見どころです。当初は8室(9つの門扉)が連続する構造で、約21メートルの高低差を一気に克服する当時としては世界最先端の土木建築でした(現在は一部改修され6室運用)。石造りの美しいアーチや独特の佇まいは、歴史的土木遺産としての高い価値を持っています。

画像出典:Wikipedia
⑥ 京杭(けいこう)大運河の閘門(中国)〜1,000年以上の歴史を持つ起源〜
特徴・見どころ: 世界最古かつ最長の人工運河(総延長約1,700km以上)です。現在世界中で使われている「2枚の扉で挟んだ部屋(閘室)で水位を調節する構造(パウンド・ロック)」は、西暦984年にこの大運河で(宋の時代に)発明されたものが起源とされています。現在も一部の区間で近代化された閘門が稼働し、内陸輸送を支えています。
話が長くなってきましたので、今回はここまで。
前編・後編、二部作でお送りしていきます。
後編は、日本にある有名な閘門の紹介と中島閘門について書いていきます。
それでは、次回もお楽しみに。
write by N・D

